保険学雑誌 第592号 2006年(平成18年)3月
根拠法のない保障の問題点と法規制の あり方
―保険と共済の棲み分けに力点を置いて―
松崎 良
■アブストラクト
近時,「根拠法のない保障」が一部の消費者に少なからぬ被害を齎し,法規制(根拠法従って監督省庁)がないので,問題含みの「根拠法のない保障」に対して適切に対処できないでいる。「根拠法のない保障」は保険業法の適用を潜脱すべく,特定性を擬態して「共済」を冒用しているものがかなりある。特定性に関する基準で不特定の者の団体(開放系)と判断されれば-その可能性がかなり高い-,無免許保険になる。この切迫した事態に対処すべく,平成17年4月保険業法が改正され,18年4月から施行される予定であり,これにより事態は大幅に改善されよう。少額・短期・掛捨ての保険のみを扱える少額短期保険業者に移行する「根拠法のない保障」が出現するが,認可共済の位置付けには変化はない。施行後5年以内に見直しが予定されており,関心を持続させる必要がある。
■キーワード
根拠法のない保障,「本来の無認可共済」,無認可保険
■本 文
『保険学雑誌』第592号 2006年(平成18年)3月, pp. 3 − 17
協同組合保険としての共済と「無認可共済」に関する考察
―保険経済論から見た本質的相違を中心に―
押尾 直志
■アブストラクト
保険行政は「無認可共済」問題に「根拠法のない共済」という観点から対応し保険業法を改正したが,同時に根拠法のある制度共済等を保険業法の適用除外とし業法中に列挙して取り込み,「共済制度全体のあり方」を検討するという新たな問題を提起した。業法改正は国際的金融・保険コングロマリットの要請に呼応しつつ,国内保険独占の利益を優先する保険行政の権威と結びついた法的カテゴリーとして特徴づけられる。こうした立法政策は,保険経済論における歴史認識にもとづく「協同組合保険としての共済」と「無認可共済」との本質的相違を軽視するだけでなく,国民諸階層の協同自治や連帯による自主的な福祉活動のエネルギーを損ない,持続可能な社会の発展に支障を来たすことが懸念される。今日の共済研究には共済に関する理論的・実践的成果を検証し,共済の実体を正しく認識したうえで,共済の歴史的性格・役割を解明していくことが何よりも必要である。
■キーワード
①協同組合保険としての共済と無認可共済との本質的相違
②改正保険業法をめぐる新たな問題
③共済の歴史的性格・役割
②改正保険業法をめぐる新たな問題
③共済の歴史的性格・役割
■本 文
『保険学雑誌』第592号 2006年(平成18年)3月, pp. 19 − 38
「根拠法のない共済」規制立法の現状と今後の課題
―保険・保険業の定義と組織法的観点を中心に―
村田 敏一
■アブストラクト
第162回国会での保険業法改正により,少額短期保険業者制度の新設等「根拠法のない共済」への規制の道筋が示されるとともに,保険業の定義から対象の不特定性が削除された。こうした立法措置は基本的に妥当なものとして評価される一方で保険業の定義の見直しは「組合」形態を採る制度共済の規制のあり方に関する立法課題を改めて浮き彫りにした。本稿では,保険業の定義論に関する学説の到達地点を踏まえ制度(組合)共済が保険業法による統一規制,監督をうけるべき必然性につき確認するとともに,その中で特に組織法的観点(相互会社と共済組合の異同)に重点を置くこととしたい。
■キーワード
「根拠法のない共済」規制,保険業の定義の見直し,相互会社と共済組合
■本 文
『保険学雑誌』第592号 2006年(平成18年)3月, pp. 39 − 58
少額短期保険業者が行う「再保険等によるリスク移転」のあり方
田爪 浩信
■アブストラクト
平成17年改正保険業法は,新たに「少額短期保険業」制度を創設した。そして,改正保険業法附則は,少額短期保険業者が所与の引受保険金額要件を超える金額を引受ける場合には,その超過金額部分について,再保険(出再)の方法によるリスク移転を義務づける経過措置を講じた。奇しくも,この経過措置は,共済事業者(少額短期保険業者)が行う再保険等によるリスク移転の問題を顕在化させたのである。
もっとも,この措置は時限措置にとどまっており,少額短期保険業者が「再保険等によって行うリスク移転」のあり方は,5年以内に解決すべき課題として位置づけられ,いわば「積み残された課題」となった。
少額短期保険業者にとって,再保険等の方法によるリスク移転の可否は,きわめて重要な経営上の論点であると同時に,顧客保護の観点からも看過できない問題である。
そこで,本稿では,現状認識を確認しつつ,金融審第二部会報告の検証等を踏まえて,現時点において,「積み残された課題」を考察する着眼点やその方向性を模索し,今後の議論の端緒となることを目的とする。
もっとも,この措置は時限措置にとどまっており,少額短期保険業者が「再保険等によって行うリスク移転」のあり方は,5年以内に解決すべき課題として位置づけられ,いわば「積み残された課題」となった。
少額短期保険業者にとって,再保険等の方法によるリスク移転の可否は,きわめて重要な経営上の論点であると同時に,顧客保護の観点からも看過できない問題である。
そこで,本稿では,現状認識を確認しつつ,金融審第二部会報告の検証等を踏まえて,現時点において,「積み残された課題」を考察する着眼点やその方向性を模索し,今後の議論の端緒となることを目的とする。
■キーワード
少額短期保険業(者)・再保険・平成17年改正保険業法附則
■本 文
『保険学雑誌』第592号 2006年(平成18年)3月, pp. 59 − 78
根拠法のない共済事業とディスクロージャー制度
恩蔵 三穂
■アブストラクト
根拠法のない共済が急増するにつれ,契約者とのトラブルが多発してきた。金融庁は,平成17年8月12日「保険業法施行令・施行規則等の改正案の骨子(案)」において,根拠法のない共済における契約者保護ルールの導入を公表した。だが,根拠法のない共済問題は,すべて解決されたわけではない。根拠法のない共済の一部(少額短期保険業者)が保険市場に参入することによって,保険市場は競争的になるかもしれない。今後,ますます契約者は自己責任が追及されるであろうし,保険会社は他社との競争が激しくなるであろう。
そこで,契約者保護を図るだけでなく,企業にとって経営戦略上の武器にもなりうるとして近年,注目されているディスクロージャーというツールを切り口として,根拠法のない共済問題について考察する。この考察を通して,根拠法のない共済問題への今後の取り組みや,保険業法改正によって新たに浮かび上がった問題を明らかにする。
そこで,契約者保護を図るだけでなく,企業にとって経営戦略上の武器にもなりうるとして近年,注目されているディスクロージャーというツールを切り口として,根拠法のない共済問題について考察する。この考察を通して,根拠法のない共済問題への今後の取り組みや,保険業法改正によって新たに浮かび上がった問題を明らかにする。
■キーワード
保険業法,根拠法のない共済,ディスクロージャー制度
■本 文
『保険学雑誌』第592号 2006年(平成18年)3月, pp. 79 − 97