保険学雑誌 第590号 2005年(平成17年)9月

生保予定利率引き下げの意義と限界

小藤 康夫

■アブストラクト

 2003年7月,逆ざやに苦しむ生保を救済する方法として,予定利率引き下げを可能とする法律が成立した。本論では予定利率引き下げの枠組みが当初の目的を達成できるかどうかを,期待効用アプローチを用いて理論的に分析している。そこから導き出された命題は,契約者たちがその新制度をどれだけ信頼するかによって,その有効性が決定されるというものである。

■キーワード

 逆ざや,予定利率引き下げ,期待効用アプローチ

■本 文

『保険学雑誌』第590号 2005年(平成17年)9月, pp. 1 − 16

英国におけるパッケージ商品の販売・勧誘に関する新規制

深澤 泰弘

■アブストラクト

 英国では投資アドバイスを要する長期貯蓄商品(パッケージ商品)の販売・勧誘を,「専属チャネル」か「IFA」のどちらかに制限する二極化ルールが1987年以来導入されてきたが,2005年1月,このルールを廃止し,新規制を導入することに決定した。この新規制の大きな特徴は大幅な規制緩和と従来の情報開示規制の修正である。仲介者が取引を行うプロバイダーの数や商品の種類に関する制限を完全になくすことにより競争を促進し消費者に有益な市場の形成を目的としている。さらにこのような規制緩和により生じる消費者の混乱をなくすために仲介者の立場を明確に開示するIDD や,コミッション・バイアスを防ぐために手数料開示文書としてメニューの導入を行っている。このような情報開示規制により消費者保護を図ると同時に消費者の金融教育の効果も促そうとしている。

■キーワード

 非二極化(de-polarisation),IDD,メニュー

■本 文

『保険学雑誌』第590号 2005年(平成17年)9月, pp. 17 − 36

生命保険の移転価格の保険数学的モデル

山岸 義和

■アブストラクト

 生命保険契約が可搬(ポータブル)であるとは,契約者が随時,契約条件の変更なく,自由に生命保険契約をひとつの保険者(保険会社)から他の保険者へ移転できることと定義する。本論では,その際の移転価格を,保険数学の多重脱退表をモデルにして算出する。ただし諸費用は無視して純保険料のみを考える。
 可搬な生命保険契約においては,契約移転時に被保険者の健康状態を再評価する手続きが必要となる。可搬でない通常の生命保険は群団の劣化(逆選択)のインセンティブを持つが,可搬なモデルでは群団の劣化は発生しえない。

■キーワード

 移転価格,逆選択,負債の公正価値

■本 文

『保険学雑誌』第590号 2005年(平成17年)9月, pp. 37 − 52

不可争条項と詐欺無効

鈴木 辰紀

■アブストラクト

 わが国の生命保険普通保険約款には「不可争条項」と「詐欺無効条項」が並存する。最近わが国で起こった業法違反事件では,営業職員は不可争条項を盾に見込み客に不利な病気の不告知を奨励し,他方,支払査定部門は詐欺無効条項を用いて保険金支払を安易に拒否したとある。対して不可争条項の母国・米国では「不可争条項」のみで告知義務違反に対処している。そのためか合衆国の生命保険告知書に見られる質問事項は極めて詳細であるが,この点はわが国の生保も大差ない。不可争条項が定める2年の可争期間が経過した後でも前でも「詐欺無効条項」に拠って保険契約の効力を争うことができるとするわが国の立場は,被保険者・保険金受取人らにとり頗る不利であるとともに,不可争条項の趣旨にも反している。それゆえわが国でも合衆国に倣って「不可争条項」のみで告知義務違反に対処すべきだというのが,本稿の主張の主眼である。

■キーワード

 不可争条項,詐欺無効,禁反言

■本 文

『保険学雑誌』第590号 2005年(平成17年)9月, pp. 53 − 71

キャプティヴによるリスクファイナンス

―世界と日本―

前田 祐治

■アブストラクト

 沖縄県名護市が,構造改革特区の一つとして日本国内初のキャプティヴ保険会社(以後,キャプティヴと呼ぶ)の設立地として名乗りをあげ,注目されている。
 全世界には現在5,200社を超えるキャプティヴ保険会社が存在するが,日本企業が設立したキャプティヴはそのうちわずか80社程度(世界の約1.5%に相当)である。しかし,これらの日系キャプティヴは,海外子会社が主導し設立したケースが多く,それらキャプティヴの付保対象は海外リスクが中心であり,日本国内のリスク付保に関しては限定的な傾向にある。
 本稿では,第一に,キャプティヴの世界と日本の現状について比較し検証する。第二に,キャプティヴ設立による企業のうける恩恵について論じる。最後に,日本企業がキャプティヴ設立において直面する課題と問題点について考察する。

■キーワード

 リスクファイナンス,キャプティヴ,沖縄県名護市

■本 文

『保険学雑誌』第590号 2005年(平成17年)9月, pp. 72 − 89