保険学雑誌 第599号 2007年(平成19年)12月
環境保険の経済効率性について
―環境税(ピグー税)との比較―
桑名 謹三
■アブストラクト
環境保険は,環境税と同様に環境汚染による外部不経済の費用を内部化する機能を有しており,保険料を通じて環境汚染を抑止することができる。保険の実務に即した保険料の表示方式を考慮したうえで,完全情報下における環境保険の経済効率性を分析した研究は,極めて少ないが,それらは,付加保険料の存在を無視したもので,かつ,環境保険の経済効率性は,理論的環境税であるピグー税に比べて劣ることを示すものであった。
本論では,付加保険料をも考慮に入れた分析を行い,環境保険の設計条件を工夫することにより,環境保険がピグー税と同等以上の経済効率性を有しうることを示す。
このことは,環境政策における経済的手法として,環境保険が環境税のオルタナティブとなりうることを証明し,さらに,新たなる公保険ビジネスの可能性をも示唆するものである。
本論では,付加保険料をも考慮に入れた分析を行い,環境保険の設計条件を工夫することにより,環境保険がピグー税と同等以上の経済効率性を有しうることを示す。
このことは,環境政策における経済的手法として,環境保険が環境税のオルタナティブとなりうることを証明し,さらに,新たなる公保険ビジネスの可能性をも示唆するものである。
■キーワード
環境保険,環境税,経済効率性
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 1 − 30
代行返上と成熟化との関係に関する研究
―暗黙契約の理論の視点から―
上野 雄史
■アブストラクト
本稿は代行返上の意思決定要因と退職給付制度の成熟化との関係を暗黙契約の理論の視点から検証したものである。サンプルは2001年3月期と2002年3月期の金融業などを除く東証1部上場企業を対象とし,総数は1,141となった。統計手法として,t検定,Mann-Whitney検定を用いた。本稿の結果から,終身年金が義務付けられている厚生年金基金を保有する企業は保有していない企業と比べて成熟度(加入者に対する受給者の割合)が高くなっており,暗黙契約の不履行を行うインセンティブが強くなっているということが明らかになった。さらに,そのインセンティブは早期に代行返上を行った企業の方が強いという結果が算出された。本稿の結果はPetersen (1992),D’Souza et al. (2006)などの先行研究の実証結果と一致し,代行返上に関する意思決定要因に退職給付制度の成熟化が影響していることが明らかになった。
■キーワード
代行返上,暗黙契約の理論,成熟化
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 31 − 57
保険契約法の現代化
洲崎 博史
■アブストラクト
平成18年9月,法務大臣から,法制審議会に対して保険法の見直しに関する諮問が行われ,これを受けて法制審議会に保険法部会が設置され,保険契約法の現代化に向けた作業が開始した。保険法部会は,平成19年8月14日に,「保険法の見直しに関する中間試案」(以下,「中間試案」という)を公表してこれをパブリック・コメント手続に付し,その後,同手続の結果も踏まえたうえで,法律案要綱の作成に向けてさらに審議を重ねている。保険契約法の現代化は,100年以上も前に制定された商法典の保険契約に関するルールを現代社会にあった適切なものとするために行われるものであるが,その作業の中で最重要課題とされているのが,保険契約者(とりわけ消費者たる保険契約者)の保護である。中間試案は,保険契約者に不利益に変更することを許さないルール(片面的強行規定)を各所に設けることでこの課題に応えようとしている。
■キーワード
保険契約法,現代化,中間試案
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 61 − 80
保険契約法現代化の持つ経済学的意味
―告知義務法制をめぐって―
石田 成則
■アブストラクト
本稿は,「保険契約法の現代化」のなかで,告知義務法制のあり方について,経済学の視点から考察したものである。具体的には,現行規律である「オール・オア・ナッシング主義」と「プロ・ラタ主義」を比較検討した。そのうえで,モデル分析とそれに基づく数値分析から,「プロ・ラタ主義」採用における問題点を指摘し,併せて現行規律の改善点に言及した。
■キーワード
保険契約の最適設計,精査システム,スクリーニング
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 81 − 96
保険契約法の現代化と保険募集における情報提供規制
小林 道生
■アブストラクト
本稿の趣旨は,保険契約法の現代化について,保険契約法と保険業法との役割分担のあり方,さらに,その際生じる保険業法の課題を検討する見地から,保険契約法と保険業法との交錯領域にある,保険募集における情報提供規制をとりあげ,保険契約法上の位置づけの是非を論じるものである。
■キーワード
保険法現代化,保険募集,情報提供義務
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 97 − 116
保険法現代化が生保実務に与える影響
―プロ・ラタ主義の導入,未成年者の保険の議論を中心に―
田口 城
■アブストラクト
保険法現代化の論点である「プロ・ラタ主義の導入」と「未成年者の保険の金額制限」は保険制度の基本に対する問題提起であり,実務に大きな影響を及ぼす。生命保険に内在する危険を防止しつつ,その経済的,社会的有用性を発揮できるよう保険法現代化に期待する。
■キーワード
プロ・ラタ主義,被保険者同意,未成年者
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 117 − 136
保険契約法の現代化と保険事業
―保険法現代化が損害保険実務に与える影響―
吉澤 卓哉
■アブストラクト
保険法現代化に関する損害保険関連の論点のうち,中間試案までに充分には議論されていないと思われる3点を取り上げる。第1に,定額保険に現物給付方式を導入することを検討しているが,保険としての内在的制約や損害塡補保険の現物給付との相違について論議が不十分である。第2に,告知義務制度の大幅な改定が検討されているが,経済学からの理論的・実証的な研究・検討が事前に必要である。第3に,片面的強行規定の適用除外に関しては,保険契約者の属性の観点からの適用除外と,リスクの属性の観点からの適用除外に分けて,さらに議論を深めるべきである。
■キーワード
現物給付,告知義務,片面的強行規定
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 137 − 156
韓国におけるリバースモーゲージ制度の活性化方案
柳成京,申紀燮
■アブストラクト
韓国政府は公的リバースモーゲージ(RM:Reverse Mortgage)制度を2007年までに導入することを決定した。したがって,本研究では最近急速な高齢化の進展により生活資金の不足によって老後生活に困っている高齢者に老後生活資金の提供のために考案されたリバースモーゲージ制度を韓国において定着させると同時に,民営リバースモーゲージ制度を活性化させるための方案を提案した。このためにまず,リバースモーゲージ制度の概念について考察し,アメリカ及び韓国のリバースモーゲージ制度の意義,商品,市場動向等を検討した。さらに韓国の公的リバースモーゲージの導入案について分析し,韓国の民営金融機関の立場から公的リバースモーゲージと共に民営リバースモーゲージを活性化させる方案を提案した。
■キーワード
リバースモーゲージ,貸出金(ローン),高齢化,保証制度
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 173 − 192
企業リスク,事業リスクの定量化についての一考察
―事業リスクマネジメントの検討―
後藤 和廣
■アブストラクト
企業価値,事業価値の維持増大は,企業経営の重要な目標の1つである。DCF 法を使い企業価値,事業価値を定量化すると,その値は変動し,また株価等の他の指標とも乖離する。企業価値,事業価値を定量化した数値とその期待値や株価等との乖離をリスクと定義することで,企業価値,事業価値のリスクマネジメントを行うことができる。企業はリスクマネジメントの実践により,企業価値,事業価値の変動を減らし,その維持増大を図ることができる。そして,必要な株主資本を準備することで,倒産を回避できる。本稿では,企業価値,事業価値を定量化し,期待値,リスク量,リスクマネジメントに必要な資本量の考え方を,モデルを設定しモンテカルロDCF 法を使い,説明する。
■キーワード
企業価値,事業価値,リスクマネジメント
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 193 − 212
イギリス金融サービス市場法にみる顧客本位原則の下での事業運営
―金融規制の質的向上へ向けた取組み―
高崎 康雄
■アブストラクト
規制遵守に関わるコストと消費者利益のバランスをいかに確保するかという課題は,効率的な監督規制を追求する上で避けて通ることができない。イギリスでは,金融サービス市場法が施行された後,法令遵守に伴うコスト増加という問題に直面し,監督規制の質的向上を迫られた。改善策としては,短期的には販売・勧誘規制を緩和した金融商品が提供される一方で,長期的には,顧客本位原則の下での事業運営と呼ばれる取組みがスタートした。この取組みが従来の手法と相違する点は,ルール・ベース(詳細な規制)からプリンシプル・ベース(原則を重視した規制)へという監督手法の転換が図られる中,企業の自主性に根ざした仕組みが用いられていることにある。この取組みはイギリスでも端緒についたばかりであるが,日本でも金融規制の質的向上が重要課題とされる中,有力な選択肢を示したものであり,注目すべき動向と考えられる。
■キーワード
ベター・レギュレーション,TCF 原則,プリンシプル・ベース
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 213 − 232
賠償責任保険において保険金から優先的な被害の回復を行う方法について
―被害者の直接請求権,特別先取特権の問題を中心に―
浅湫 聖志
■アブストラクト
法制審議会保険法部会において,規律の現代化として幾つかの新たな試みが審議されている。その中で,賠償責任保険契約に固有の事項として検討が進められている「保険金から優先的な被害の回復を行う方法」について,一定の条件が付された「直接請求権」や「特別先取特権」を制度として設けることが提案されている。こうした制度の創設には,実務的には多くのハードルがあるので,その問題点を明らかにしながら,どのような条件のもとであれば実効性のある制度が立ち上げられるのか,実務家の立場から考察した。
■キーワード
賠償責任保険,直接請求権,特別先取特権
■本 文
『保険学雑誌』第599号 2007年(平成19年)12月, pp. 233 − 252