保険学雑誌 第653号 2021年(令和3年)6月
琵琶湖の全循環停止リスクに対する環境リスクファイナンスの提案
久保 英也,菊池 健太郎,北澤 大輔,吉田 毅郎
■アブストラクト
地球温暖化の進行に伴い,地震,台風など「自然災害リスク」の金融市場への移転は進んでいるが,同じ影響下にあるはずの「自然環境リスク」の移転はみられない。SDGsの推進や日本の大手保険会社が力を入れる地方創生活動の一環としても重要性が高い自然環境リスクの移転は,ニーズが潜在化していると共に個別性,地域性が強く,商品化の難易度が高いことが原因と考えられる。
本稿では,水質と生態系を大きく毀損する琵琶湖の「全循環停止リスク」を取り上げ,自然環境リスクを金融市場に移転する環境リスクファイナンスのアプローチを具体的に示す。その核心であるリスク確率の推定法として,①溶存酸素量時系列変動モデルによりリスク評価される琵琶湖全循環停止オプションと②「流れ場・生態系結合数値モデル」と「気象変数確率モデル」との接合による推定法,の2つを提案する。前者は,調達額の制約はあるものの,ベーシスリスクの抑制と簡便さを,後者は琵琶湖に限定しない内外の湖沼や自然環境リスク全般を移転できる汎用性を有している。環境リスクファイナンスという分野と市場を立ち上げ,国内はもとより,アジアなど発展途上国の自然環境保護に対し資金面から支援していきたい。
本稿では,水質と生態系を大きく毀損する琵琶湖の「全循環停止リスク」を取り上げ,自然環境リスクを金融市場に移転する環境リスクファイナンスのアプローチを具体的に示す。その核心であるリスク確率の推定法として,①溶存酸素量時系列変動モデルによりリスク評価される琵琶湖全循環停止オプションと②「流れ場・生態系結合数値モデル」と「気象変数確率モデル」との接合による推定法,の2つを提案する。前者は,調達額の制約はあるものの,ベーシスリスクの抑制と簡便さを,後者は琵琶湖に限定しない内外の湖沼や自然環境リスク全般を移転できる汎用性を有している。環境リスクファイナンスという分野と市場を立ち上げ,国内はもとより,アジアなど発展途上国の自然環境保護に対し資金面から支援していきたい。
■キーワード
環境リスクファイナンス,全循環停止リスク,閾値帯
■本 文
『保険学雑誌』第653号 2021年(令和3年)6月 , pp. 1 − 30
MaaSの推進と法規制
後藤 大
■アブストラクト
MaaSを推進していく上での法規制について,まずサイバー空間としてのMaaS空間を定義する。その上で,いわゆるMaaSのレベルに応じて,どのような法規制が関わってくるのかを,自動車を例に,レベル0から検討し,レベル1のデータ連携に関する法規制として個人情報の保護に関する法律の適用,レベル2の予約と決済の統合による法規制として旅行業法や独占禁止法の適用,レベル3のサービスの一元化,特にサブスクリプションサービスを想定して,運賃規制に関わる各種事業法を取り上げる。レベル2に関しては,レベル3までとは若干検討の視点が変わり,都市計画と情報連携の観点から,都市計画法,地方自治法等の行政側に適用される法律を検討する。また,MaaSにおけるデータの取扱いについては,個人情報及びプライバシーの保護が重要であり,EUにおける一般データ保護規則の規定を参照しながら,適切な告知と同意が必要となることを論じる。また,運賃規制と旅行業法の活用が重要となる。関連領域について,医療MaaSを例に,法改正により,MaaS事業の発展に影響を与えることを論じる。最後に事故時の責任について,交通事業者ではないMaaS事業者が負うべき義務と,インターモーダルにおける不法行為責任と債務不履行責任の責任主体とその関係並びに保険の関係を論じ,MaaS空間における個人の損害保険の可能性を検討する。
■キーワード
MaaS,MaaS関連データ,事故時の責任と保険
■本 文
『保険学雑誌』第653号 2021年(令和3年)6月 , pp. 67 − 75
AI便乗サービスSAVSとMaaSへの展開
松原 仁
■アブストラクト
路線バスより便利でタクシーよりも安価な公共交通サービスの実現を目指してSAVSという配車サービスのシステムを作成して社会実装を進めている。このSAVSはMaaSの一部をなすものである。本稿ではSAVSの概要を紹介し,MaaSにおけるSAVSの役割を説明した上で,展開するにあたって考慮すべき点を列挙する。
■キーワード
人工知能,公共交通,デマンド
■本 文
『保険学雑誌』第653号 2021年(令和3年)6月 , pp. 77 − 87
日本版MaaSの推進とMaaSサイバー保険
—自動運転に対するより高い社会的受容性を指向して—
肥塚 肇雄
■アブストラクト
MaaSがデータ基盤を基礎に成り立つことから,日本版MaaSを推進するためには,自動運転走行中にサイバー攻撃を原因とする事故が惹起された場合の人身事故救済を充実させて,MaaSの社会的受容性を高める必要がある。しかし,自動運転モードで走行中の自動運転車の運行に対しては自賠法が適用されない。そこで,新しい保険を創設する必要がある。それが自動運転事故傷害保険である。ところが,この保険では,サイバー攻撃を原因とする人身損害については保険者は免責される。この被害者救済の間隙は,サイバー保険に特約として付帯されるMaaSサイバー保険を創設し穴埋めすることが適当である。この保険は,不定額給付型の傷害保険としての性格を有する。この保険でも,戦争その他の変乱に匹敵するサイバー攻撃を原因とする人身損害は保険者免責とされる。
■キーワード
MaaS,サイバー保険,データ連携基盤
■本 文
『保険学雑誌』第653号 2021年(令和3年)6月 , pp. 89 − 117
自己負担額の増加が介護サービスの利用に与える影響
菊地 雅彦
■アブストラクト
公的介護保険制度は,介護サービス利用時の自己負担額を原則1割としてスタートしたが,現在は所得に応じて2割または3割負担となっている。
本稿では,自己負担額の増加により介護サービスの利用が減少すると介護者となった家族等の介護負担が大きくなることから,自己負担額の増加が介護サービスの利用に与える影響を分析する。
介護・看護による離職者と介護サービス受給者の分析結果から,女性のパートタイム労働者と居宅介護サービス受給者,男性と女性の一般労働者と施設介護サービス受給者との間に有意に相関があることが認められた。
自己負担額の増加が訪問介護サービスの利用回数に与える影響を政令指定都市のデータを基に分析した結果,介護サービスの利用は自己負担額の増加に関わらず市によって違いがあり,要介護度の違いによる影響も各市で同じ傾向とはならなかった。また,不労所得や世帯所得,労働形態との相関は認められなかった。
本稿では,自己負担額の増加により介護サービスの利用が減少すると介護者となった家族等の介護負担が大きくなることから,自己負担額の増加が介護サービスの利用に与える影響を分析する。
介護・看護による離職者と介護サービス受給者の分析結果から,女性のパートタイム労働者と居宅介護サービス受給者,男性と女性の一般労働者と施設介護サービス受給者との間に有意に相関があることが認められた。
自己負担額の増加が訪問介護サービスの利用回数に与える影響を政令指定都市のデータを基に分析した結果,介護サービスの利用は自己負担額の増加に関わらず市によって違いがあり,要介護度の違いによる影響も各市で同じ傾向とはならなかった。また,不労所得や世帯所得,労働形態との相関は認められなかった。
■キーワード
介護保険制度,介護サービス,自己負担額
■本 文
『保険学雑誌』第653号 2021年(令和3年)6月 , pp. 141 − 164