保険学雑誌 第665号 2024年(令和6年)6月

先端医療と公的医療保険制度

伊藤 豪

■アブストラクト

 本稿は,先端医療における公的医療保険制度の適用対象・範囲を確認し,現行の公的医療保険制度の問題点について分析を行い,保険理論から見た先端医療をめぐる公的医療保険制度の改善点など新たなる提言を行ったものである。
 まずはじめに,現代医療における先端医療を概観し,その先端医療が現行の公的医療保険制度でいかに取り扱われているかを整理した。現行制度を踏まえた上で,治験・先進医療が保険収載,患者申出診療に承認されるまでの壁について,2023年3月9日に先進医療Bに承認された「がん遺伝子パネル検査」を取り上げ,具体的な問題点について検討を行った。そして,最後に先端医療をめぐる公的医療保険制度への新たなる提言として,「保険適用範囲」 「予防医療」 「保険者機能の強化」 「ビッグデータの構築」をテーマに現行の制度設計の見直しについての提言を行った。

■キーワード

 先進医療,ゲノム医療,がん遺伝子パネル検査

■本 文

『保険学雑誌』第665号 2024年(令和6年)6月, pp. 19 − 36

生命保険会社の先端医療への取組みと課題について

野澤 聡

■アブストラクト

 生命保険各社は,様々な商品やサービスを提供しているが,その内容は社会環境や顧客ニーズに伴い,時代と共に変化している。こうした社会環境の変化の1つに先端医療の出現があるが,本稿では,がんの早期発見技術,がんゲノム医療,デジタル・セラピューティクス,および,再生医療等の4つの先端医療技術を題材に,生命保険会社の取組みをとりあげ,その課題について考察した。生命保険会社は従来のやり方に留まらない柔軟な対応により,先端医療技術の普及・活用に貢献し,顧客の健康増進や公的保険の補完といった「生命保険業界の役割」を果たしていくこと,一方で,技術によりもたらされる可能性のある新たな顧客の不安や生命保険経営への影響について,十分留意していくことが必要である。

■キーワード

 がん先端医療,デジタル・セラピューティクス,再生医療

■本 文

『保険学雑誌』第665号 2024年(令和6年)6月, pp. 37 − 52

「先進医療」のアクセシビリティと民間保険の役割

浅沼 陽介

■アブストラクト

 先進医療の実施医療機関数や患者数は増加傾向にあったことから,先進医療は一定程度普及していると考えられる。しかし,先進医療の普及・利用拡大には,医療機関・患者双方からの課題がある。特に患者側における先進医療利用の主な課題は,高額な治療費の自己負担や,提供可能な医療機関数が少ないことに起因する地域格差などがある。また,先進医療の実施にあたって求められる患者側の基本的な先進医療に関する知識についても,普及しているとはいい難い。民間保険は経済的負担をサポートすることで,治療費の自己負担や地域格差といった,患者にとっての課題の解決の一助となっている。また,民間保険は,当該補償の募集により先進医療の知識の周知にも貢献している。実際,民間保険の先進医療補償加入者の事故発生率は,一般統計から算出したものに比べて高い傾向にあることから,民間保険は先進医療の利用促進に一定の役割を果たしていると推察している。

■キーワード

 先進医療,民間保険,自己負担

■本 文

『保険学雑誌』第665号 2024年(令和6年)6月, pp. 53 − 68

先端医療をめぐる賠償責任・補償責任と保険

—再生医療等賠償責任保険・補償責任保険を中心に—

土岐 孝宏

■アブストラクト

 再生医療等の安全性の確保等に関する法律および同・施行規則に基づき,再生医療提供者(医療機関・研究機関)が,細胞提供者および臨床研究として再生医療等の提供を受ける者(研究対象者)の健康被害補償のため,保険への加入措置等を講じなければならないことに対応して販売されている,再生医療等賠償責任保険・補償責任保険は,先行する,医薬品等の承認を得る過程に行われる治験補償の枠組みないしこの補償のための資金を手当てする治験保険を範とするものであるが,現状において,治験(保険)における補償内容ないし補償金額水準との間で,改善することが望ましい開きがある。また,根本にある再生医療等安全性確保法(法令)そのものにも,日本再生医療学会が現状では自主的な補償を推奨するところの「治療としての再生医療の提供(自由診療が多く,現に死亡例もある) 」には,健康被害補償のための付保義務がないなど,立法政策としての検討課題もある。

■キーワード

 再生医療,再生医療等賠償責任保険,再生医療等補償責任保険

■本 文

『保険学雑誌』第665号 2024年(令和6年)6月, pp. 69 − 98