保険学雑誌 第598号 2007年(平成19年)9月

保険契約関係者の変動を巡る法的諸問題

山下 典孝

■アブストラクト

 生命保険契約の買取を発端とした保険契約者の地位の変更及び保険金受取人の指定変更を巡る法的問題を中心に,保険契約関係者の変動を巡る法的問題につき検討を加える。保険契約者の地位の変更につき保険者は同意義務を負っておらず,同意するか否かは保険者の裁量の範囲と考えられる。保険金受取人の変更につき一定の場合には何らかの制限を設ける必要性があるとも考えられる。

■キーワード

 生命保険買取,保険契約者の地位の変更,保険金受取人の変更

■本 文

『保険学雑誌』第598号 2007年(平成19年)9月, pp. 1 − 20

保険の原理原則に基づく事業展開と保険活用

―保険金不払いから生命保険売買訴訟まで―

石田 重森

■アブストラクト

 保険制度は,原理原則に基づいて組成され,その原理原則に則って事業経営が展開されるはずである。
 ところが金融・保険を取り巻く環境が大きく変動し,規制緩和の実施,自由競争の激化,業界再編成の進展などの状況下にあって,保険事業の本来的な理念から逸脱した現象が多く見られるようになった。保険金の不適切な不払い,給付金の支払い漏れなどで,保険事業のコンプライアンスが厳しく求められている。
 一方,保険を活用する消費者・加入者サイドでも従来から問題とされてきた逆選択,モラル・ハザードに加え,生命保険の売却を希望し,生命保険買取り業者の出現で,これが社会問題ともなり訴訟が行われた。この解決策の一つが生前給付特約の拡充と考えられ,保険業界も検討する価値はあろう。
 いずれにしろ,保険を提供する側も加入する側も,保険の原理原則に則った正しい活用が望まれる。

■キーワード

 保険の正しい活用,生命保険売買訴訟,生命保険の生前給付

■本 文

『保険学雑誌』第598号 2007年(平成19年)9月, pp. 21 − 34

生命保険会社の経営破綻要因

植村 信保

■アブストラクト

 本研究では1997年から2001年に経営破綻した中堅生保について,各種の資料に加え,当時の経営者など関係者への大規模なインタビューを行うことで,各社が破綻に至った要因を格付けアナリストの視点から考察した。さらに,同時期の韓国生保の破綻事例についても調査を行い,日本との比較を試みた。一連の生保破綻については,バブル崩壊などの外的要因に求める見方が一般的だ。しかし,調査の結果,破綻は必ずしも外的要因だけで発生したのではなく,内的要因が重要な役割を果たした可能性が浮き彫りになった。いくつかの内的要因が破綻リスクを高め,その後,経営環境にストレスが生じた局面で各社の経営が悪化。さらに,いくつかの内的要因が危機認識の遅れや不適切な対応をもたらし,最終的に各社が破綻に至ったことが伺える。

■キーワード

 ペンローズ報告書,オーラル・ヒストリー,外的要因と内部要因

■本 文

『保険学雑誌』第598号 2007年(平成19年)9月, pp. 35 − 52

リスク転嫁に関する保険とERM の一考察

大城 裕二

■アブストラクト

 情報処理技術の進歩,グローバリゼーションの進展,規制緩和の進行等,経済社会の環境変化は構造的であり,企業活動の経営的関心においては,もはやリスクへの対応が不可避的視座となっている。大災害リスク,テロ・リスク,利率リスク等,伝統的保険手法によるリスク処理能力に限界性が指摘され,資本市場を糾合するリスク財務体系の開拓が飛躍的進歩を見せてきている。リスク財務の転嫁手法としては,保険が絶対的に有力視されてきたが,リスク環境動向を反映して,代替的リスク転嫁手法(ART)の開拓を中心に,財務統合的・総合的なリスク処理実践の展開が進行している。こうした斬新なリスク処理実践体系の代表的表現とされるERM は,リスク財務のリスク転嫁手法を有力な手法として開発させている。リスク転嫁の有力施策である保険は,ERM の展開においても基盤的施策として位置づけられる。

■キーワード

 ERM(企業体リスクマネジメント),リスク財務,リスク転嫁

■本 文

『保険学雑誌』第598号 2007年(平成19年)9月, pp. 53 − 72

公共工事とボンド制度

草苅 耕造

■アブストラクト

 この論文は,まず,信用リスクの意義,これを担保する保険制度を概述し,その中で,保証証券業務について保険業法上の位置づけを明らかにした。次に,公共工事の契約制度の現状と課題を指摘し,その解決の為,「市場による業者選択」が不可欠であることを論じた。この中で保証証券業務(ボンド制度)の役割の重要性を公共工事契約制度の変遷と共に説明した。現在まで完成保証人制度の廃止,新履行保証制度の導入,保証割合の拡大,入札ボンド制度の導入等一般競争入札を拡大する為の改善策が順次実施されてきた。しかし,入札ボンドの事前提出,前払金保証会社の実質的独占状態等依然未解決の問題がある。さらに,透明性,公平性,競争性の高い入札制度実施の為に必要な対策を指摘した。最後に,損害保険会社がボンド制度を通じ期待される役割を果たす為,何が必要かを論じた。

■キーワード

 保証証券業務,ボンド,公共工事

■本 文

『保険学雑誌』第598号 2007年(平成19年)9月, pp. 73 − 92

陸上保険契約法における因果関係論再考

―火災保険契約における保険者免責条項を素材として―

梅津 昭彦

■アブストラクト

 保険金請求権者は,その請求に際して保険事故と発生した損害との間の因果関係を証明しなければならない。また,保険者は保険金支払を拒絶する場合の一つとして,保険者免責事由に該当することを主張し,発生した損害とその原因事実との間の因果関係を証明しなければならない。いずれにせよ,保険契約において保険金請求が認められるか否かは「因果関係」の存否が問題となる。そこで,因果関係論は,これまで海上保険契約においては整理・検討されてきたところであるが,本稿は,これまでの因果関係に関する理解を整理し,火災保険契約における保険者免責条項に限ってではあるが近時の判決例を整理・検討することにより,陸上保険契約における因果関係論を再考するための素材を提供する。

■キーワード

 因果関係,火災保険契約,地震免責条項

■本 文

『保険学雑誌』第598号 2007年(平成19年)9月, pp. 93 − 112

保険法における解約返戻金規整の考察

田口 城

■アブストラクト

 解約に伴い不要となった保険料積立金を保険者が自由に処分できるとすることは適当ではない。解約時の保険契約者保護のため,解約返戻金請求権を法律上の権利として規整すべきである。一方で,解約返戻金の水準を高めることは,保険群団に残存する保険契約者とは利益相反の関係となる。規整整備に際しては,両者のバランスに配慮することが必要である。

■キーワード

 解約返戻金,保険料積立金

■本 文

『保険学雑誌』第598号 2007年(平成19年)9月, pp. 113 − 132