保険学雑誌 第644号 2019年(平成31年)3月
欧米,アジアの経験から学ぶ保険研究・教育の展望
—平成30年度大会シンポジウム—
岡田太,柳瀬典由,藤井陽一朗,中林真理子,大倉真人,山﨑尚志
■アブストラクト
今年度の大会シンポジウムの目的は,日本の保険研究・教育を展望するため,海外の主要な国際学会の動向や経験を学ぶこと,またそれらの学会におけるディシプリンである経済学やコーポレート・ファイナンスが近年どのように保険に適用されているかを学ぶことである。
前者について,厳しい競争環境に直面している国際学会では学会の価値を高めようと多くの取り組みを行っており,近年日本からの参加者が増えている。後者について,保険論との関連が強いミクロ経済学の領域の1つに行動経済学があり,「後悔理論」や「安堵理論」の保険への適用事例が紹介された。また,実際のリスクマネジメントの意思決定にコーポレート・リスクマネジメント理論が影響を与えており,教育の重要性が確認された。
前者について,厳しい競争環境に直面している国際学会では学会の価値を高めようと多くの取り組みを行っており,近年日本からの参加者が増えている。後者について,保険論との関連が強いミクロ経済学の領域の1つに行動経済学があり,「後悔理論」や「安堵理論」の保険への適用事例が紹介された。また,実際のリスクマネジメントの意思決定にコーポレート・リスクマネジメント理論が影響を与えており,教育の重要性が確認された。
■キーワード
ディシプリン,インパクトファクター,ディープパラメータ
■本 文
『保険学雑誌』第644号 2019年(平成31年)3月, pp. 1 − 40
P2P保険の「保険」該当性
吉澤 卓哉
■アブストラクト
本稿は,P2P保険(peer to peer insurance)の概要および主要類型を示したうえで,保険法および保険業法のP2P保険への適用可能性を検討するものである。P2P保険は,インシュアテック(InsurTech)を用いた保険(または,類似保険)の仕組みであるが,現在行われているP2P保険は,ブローカー型,キャリア型,相互救済制度型の3つに大別できる。本稿では,団体構成員間でリスクの分散負担を全面的に行う相互救済制度型のP2P保険(その典型例として,Teambrellaをとりあげた)に焦点を絞って,保険該当性の問題を検討した。
まず,経済的な保険に該当するか否かを検討すると,日本の主要学説の立場ではTeambrellaは経済的な保険に該当せず,一方,筆者の立場では経済的な保険に該当することが判明した。
次に,筆者の立場では,Teambrellaは経済的な保険に該当するので,さらに保険法や保険業法の適用可能性を検討することになる。検討の結果,Teambrellaは保険法の「保険契約」に該当しないため,少なくとも保険法が適用されることはない(ただし,類推適用の可能性はある)。また,Teambrellaは保険業法における「保険業」に該当しないため(たとえ,拡大解釈をしても適用されないと考えられる),保険業法は適用されないと思われることが明らかとなった。
以上のとおり,少なくともP2P保険のうちの相互救済制度型のもの(典型的には,Teambrella)に関しては,現行の保険法や保険業法が適用されず両法がうまく機能しない問題があることが(あるいは,適用されずにうまく機能しない可能性のあることが),明らかとなった。
まず,経済的な保険に該当するか否かを検討すると,日本の主要学説の立場ではTeambrellaは経済的な保険に該当せず,一方,筆者の立場では経済的な保険に該当することが判明した。
次に,筆者の立場では,Teambrellaは経済的な保険に該当するので,さらに保険法や保険業法の適用可能性を検討することになる。検討の結果,Teambrellaは保険法の「保険契約」に該当しないため,少なくとも保険法が適用されることはない(ただし,類推適用の可能性はある)。また,Teambrellaは保険業法における「保険業」に該当しないため(たとえ,拡大解釈をしても適用されないと考えられる),保険業法は適用されないと思われることが明らかとなった。
以上のとおり,少なくともP2P保険のうちの相互救済制度型のもの(典型的には,Teambrella)に関しては,現行の保険法や保険業法が適用されず両法がうまく機能しない問題があることが(あるいは,適用されずにうまく機能しない可能性のあることが),明らかとなった。
■キーワード
P2P保険(peer to peer insurance),インシュアテック(InsurTech), 保険該当性
■本 文
『保険学雑誌』第644号 2019年(平成31年)3月, pp. 77 − 106
分離均衡モデルに基づく公的年金制度と私的年金保険のあり方に関する考察
諏澤 吉彦
■アブストラクト
本稿は,個人が老齢期に必要な保障を得るために,公的年金制度がいかに設計され,保険事業がどのような私的年金保険を提供すべきかについて,分離均衡モデルに基づいて分析を試みたものである。公的年金制度が均一的なプール保険料に基づき,私的年金保険が加入者の年齢による分離保険料に基づき,それぞれ提供されるとすれば,前者からの加入者の離脱を防ぐためには,加入対象となる年齢を過度に低くせず,かつ保障限度を引き上げ過ぎないことが必要であることがわかった。後者に関しては,年齢区分による保険料較差に制限が設けられ,定率の内部補助が行われることにより,加入が促進されることが示唆された。公的年金制度設計に際して,また,私的年金保険の商品設計に際しては,以上のことを考慮すべきであることが示された。
■キーワード
私的年金保険,公的年金制度,分離均衡モデル
■本 文
『保険学雑誌』第644号 2019年(平成31年)3月, pp. 107 − 127
志田鉀太郎『保険学講義案:全』
—その特色および意義の考察—
大蔵 直樹
■アブストラクト
本稿の研究の目的は,先駆的保険研究者の一人である志田鉀太郎が1927年に著わした『保険学講義案:全』を研究対象とし,その特色を明らかにすることを通じて,その意義および現代にもつながる示唆を探ることにある。
当時の時代環境を背景とする経済学と保険学の進展,『保険学講義案:全』はその研究成果を採り入れ理論構築していたことを帰納的アプローチにより明らかにする。「経済学一分科説」の提唱と,不可分のものとして「保険学体系化」を明示したところに特色があり,それにより保険学が求められていた役割発揮に関し経済学の考え方でとらえる研究を可能にした,との問題を提起し考察を行う。
さらに当時の有力保険学説および経済学上の「効用」ならびに保険の「効用」を需要・供給サイドの視線により考察を行い,現代にもつながる示唆も導き出す。
当時の時代環境を背景とする経済学と保険学の進展,『保険学講義案:全』はその研究成果を採り入れ理論構築していたことを帰納的アプローチにより明らかにする。「経済学一分科説」の提唱と,不可分のものとして「保険学体系化」を明示したところに特色があり,それにより保険学が求められていた役割発揮に関し経済学の考え方でとらえる研究を可能にした,との問題を提起し考察を行う。
さらに当時の有力保険学説および経済学上の「効用」ならびに保険の「効用」を需要・供給サイドの視線により考察を行い,現代にもつながる示唆も導き出す。
■キーワード
志田鉀太郎,保険学説研究,経済学上の「効用」と保険の「効用」
■本 文
『保険学雑誌』第644号 2019年(平成31年)3月, pp. 129 − 152