保険学雑誌 第603号 2008年(平成20年)12月
【韓国保険学会報告】Reform on the Insurance Law in Japan:
A Perspective of New Japanese Insurance Law
Akihiko Umetsu
■アブストラクト
On M arch 5, 2008, a proposed bill on Insurance Law reform was published in Japan. The bill’s aims were the modernization of the current outdated insurance regulations and the protection of policyholders and the insured. In this paper, I will introduce the proposed bill’s three important amendments: reform of the duty of disclosure system, the problem of over-insurance, and matters concerning accident and illness insurance. While the contents of these reforms will doubtless contribute to the protection of both policyholders and the insured and I am in broad agreement with their objectives, some residual problems remain. One of these is the issue of life policies for minors, i.e. whether death benefits on such policies should be capped. It is the author’s contention that some form of restriction ought to be applied.
■キーワード
proposed bill on Insurance Law reform, duty of disclosure, overinsurance, accident and illness insurance, life policies for minors
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 1 − 8
金融商品取引法等の一部を改正する法律による保険業法の改正について
権藤 幹晶
■アブストラクト
平成20年6月13日,「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が公布された。同法は,プロ向け市場の創設,ETF(上場投資信託)の多様化,銀行・証券・保険間のファイアーウォールの見直し,利益相反管理体制の構築,銀行等の業務範囲の拡大,課徴金制度の見直し等を行うものである。保険業法も同法によって所要の改正がなされており,ファイアーウォール規制の見直し(取締役の兼職規制の緩和),利益相反管理体制の構築,業務範囲の拡大(排出権取引,議決権保有制限の例外の拡大,投資助言業務)といった措置がなされている。
■キーワード
ファイアーウォール規制の見直し,利益相反管理体制の構築,業務範囲の拡大
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 9 − 28
法人の機関による保険事故招致について
河森 計二
■アブストラクト
保険契約者または被保険者が法人である場合,法人のいかなる範囲の者の保険事故招致を法人の事故招致と認めるかについては,商法第641条の文言からすると明らかでない。本稿は,この法人契約における保険事故招致のあり方を論ずるものである。従来,保険契約者・被保険者と近い関係にある者の事故招致について保険者の免責を認める理論として,いわゆる「代表者責任論」が主張されてきた。しかし,法人契約について「代表者責任論」が妥当するか検討しなければならない。法人契約については,特に有限責任の法人による保険契約については,法人性を重視し,法人の財産的側面から検討を加える必要がある。
■キーワード
法人,保険事故招致,請求権代位
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 29 − 48
自己信託を利用した保険料保管専用口座の実務
―コミングリングリスクの回避を目的とした自己信託の活用―
田爪 浩信
■アブストラクト
最高裁平成15年2月21日判決は,保険料保管専用口座に係る預金債権は損害保険代理店に帰属すると判示した。この結果,同預金債権は損害保険代理店の責任財産を構成し,損害保険代理店が倒産した場合には,損害保険会社は保険料全額を回収できないというコミングリングリスクが生じる。
一方,平成19年9月30日に施行された新しい信託法は,「委託者が自ら受託者となる信託」すなわち自己信託を法認し,1年間の凍結期間を経ていよいよ自己信託が解禁された。
自己信託にはそのビジネスニ-ズの一つとして,コミングリングリスク回避のための活用が期待されている。
そこで,保険料保管専用口座に係る預金債権に自己信託を設定することによって,損害保険会社に生じうるコミングリングリスクの回避可能性を模索し,その実務上の有効性と課題を検討する。
一方,平成19年9月30日に施行された新しい信託法は,「委託者が自ら受託者となる信託」すなわち自己信託を法認し,1年間の凍結期間を経ていよいよ自己信託が解禁された。
自己信託にはそのビジネスニ-ズの一つとして,コミングリングリスク回避のための活用が期待されている。
そこで,保険料保管専用口座に係る預金債権に自己信託を設定することによって,損害保険会社に生じうるコミングリングリスクの回避可能性を模索し,その実務上の有効性と課題を検討する。
■キーワード
保険料保管専用口座,コミングリングリスク,自己信託
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 49 − 67
若者と年金問題
佐々木 一郎
■アブストラクト
昨今のわが国では,親の収入・学歴・職業と,子の収入・学歴・職業との関連性が顕著に高まるなど,階層固定化傾向が強まり,格差社会が進展しつつあることが先行研究から指摘されている。一見すると,年金問題(とりわけ若者の年金未加入未納問題)は,この格差社会の問題とは無関係にみえるかもしれない。しかし,親の年金意識の「格差」から,子の年金未加入・未納率に顕著な差が生じている可能性もあり,年金問題は格差問題と深いかかわりがあることも考えられる。本研究では,大学生対象のアンケート調査データから,親の年金意識の格差と,子の国民年金未加入との関係を分析した。分析の結果,親の年金意識の格差は,子の国民年金未加入に顕著な影響を及ぼしていることが明らかになり,年金問題には,格差問題の一端が反映されていることが示唆された。
■キーワード
若者の年金未納問題,階層固定化,年金教育
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 69 − 86
確定給付型企業年金におけるモラル・ハザードと受給権保護
李洪茂
■アブストラクト
確定給付型企業年金の受給権保護には,次のような問題点がある。第一に,加入者期間中に受給権の付与(vesting)が行われておらず,積立不足の解消が困難な場合等は,加入者拠出分を含めて,受給者及び加入者の両方の減額が認められたことによって,積立不足を拡大させて減額を行う企業のモラル・ハザードが誘発されている。第二に,独立性のない年金数理人が積立義務の履行状況を確認しており,年金業務に対する監督権が厚生労働省・国税庁・金融庁に分割されたことによって,受託会社の営業活動などに対する監督が不十分となり,積立義務の回避または減額のための積立不足の水増し等の企業のモラル・ハザードを高めている。第三に,支払保証制度がないため,企業のモラル・ハザードの多くが各年金基金別に放置され,管理されていない。受給権保護のための確定給付型企業年金の一体的な監督と企業のモラル・ハザードの防止のための抜本的な改革が急がれている。
■キーワード
確定給付企業年金,受給権,モラル・ハザード
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 87 − 106
解約返戻金の約款規制
金岡 京子
■アブストラクト
解約返戻金約款の内容は,契約締結時の保険契約者の実質的決定自由を保護するために,新契約費,解約控除の有無,その計算方法等に関し,保険契約者に理解可能で明確な情報開示を通して改善されるべきである。保険契約者の任意解除権を任意規定として定め,さらに片面的強行規定して法律の定める事由による契約終了の場合に保険者が支払う保険料積立金の定義を規定した保険法の規範目的を考慮するならば,契約類型及び解約控除の有無に応じた監督法の規定が必要である。
■キーワード
解約返戻金,約款規制,保険法
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 107 − 126
企業福祉の変容と生命保険会社の対応
―雇用調整と団体保険―
河本 淳孝
■アブストラクト
慢性的な労働力不足の時代に脚光を浴びた企業福祉は,雇用調整の時代を迎えて大きく変容しつつある。わが国では99年から雇用調整が本格化して正規雇用が大幅に縮小した。企業福祉の主な対象である正規社員が減少すれば団体保険の被保険者も減少する。事実,正規社員は06年までに12%減少し,団体保険の被保険者はそれを上回って減少した。人件費効率化を促す経営環境は今後も続くことが予想されるだけに,生命保険会社は安定した事業基盤を維持するための有効策を打ち出す時期にある。
雇用調整が進む側らで,非正規社員,若年層等の労働力不足は常態化しつつある。良質な労働力を安定的に確保する方策のひとつとして企業福祉を再評価する動きも見られる。生命保険会社はこれまで正規社員の有配偶者層等を主な顧客層と想定してきたが,今後は多様な顧客層を想定したうえで,企業の人件費効率や生産性向上あるいは企業福祉格差にも配慮した提案を心がけたい。
雇用調整が進む側らで,非正規社員,若年層等の労働力不足は常態化しつつある。良質な労働力を安定的に確保する方策のひとつとして企業福祉を再評価する動きも見られる。生命保険会社はこれまで正規社員の有配偶者層等を主な顧客層と想定してきたが,今後は多様な顧客層を想定したうえで,企業の人件費効率や生産性向上あるいは企業福祉格差にも配慮した提案を心がけたい。
■キーワード
企業福祉,団体保険,企業福祉格差
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 127 − 146
ハザード概念について
―保険論におけるモラル・ハザード及びモラール・ハザードを中心として―
安井 敏晃
■アブストラクト
本稿では,ハザード概念,モラル・ハザードおよびモラール・ハザードについて検討を加えた。その結果,保険論におけるハザードには,他のリスク関連科学と比べて特徴的な点が認められることを指摘した。また,従来はもっぱら保険の弊害として捉えられてきたモラル・ハザードにおける効果を再確認した。さらにモラール・ハザードについても,保険の弊害とは言い切れないことを改めて確認した。
■キーワード
ハザード,モラル・ハザード,モラール・ハザード
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 147 − 163
保険業法における共済の位置付け
―共済の独自性を維持するために―
松崎 良
■アブストラクト
共済と保険は保障という大分類では共通性があるが,指導理念・組織原理・保障技術の点で夫々別異の体系を構成しており,行為法(契約法)及び業法の両面で,夫々に適合した別々の法律の下で切磋琢磨することが,夫々の利用者(契約者)及び国民経済に資することになる。外圧に関わらず,各々相違した保障を敢えてイコールフッティングの名の下に同様の法規制を掛ける必要性は全く無く,保険は保険内部で保障を更に充実させるように努力すべきである。共済は地道に直向に孜孜営々と努力を積み重ねてきた成果が今日多くの利用者に評価されている訳であり,保険は共済から謙虚に学び取る姿勢が必要であろう。自己と異なったものの存在を認めた上で,相互に研鑽する多様性を日本の社会から喪失してはならない。
■キーワード
保険業法,保険法,共済
■本 文
『保険学雑誌』第603号 2008年(平成20年)12月, pp. 165 − 184