保険学雑誌 第659号 2022年(令和4年)12月
『21世紀金融行動原則』予防的アプローチの再定義
—パンデミックXに向け,感染拡大予防に資する保険セクターの役割—
大蔵 直樹
■アブストラクト
『21世紀金融行動原則』に予防的アプローチの定義付けはされていない。環境保護目的に開発された予防的アプローチの概念は,21世紀に入り保険セクターにとっても防災等による持続可能社会形成のため実践するものとして適用範囲が拡大されてきた。
本論文の第一の研究の目的は,次なるパンデミックXにおいて持続可能社会形成と地域社会レジリエンス力向上に資する,社会的存在たる保険セクターに蓄積されている知見および強みの深化を行うことである。第二の研究の目的は,その合理的な活用による予防可能な分野について探索することである。本論文では,COVID-19事例分析を通じて,高齢者に対するワクチン接種加速の分野に探索の焦点を当て考証する。第三の研究の目的は,次なるパンデミックXに備えるための具体的提言への糸口とすることである。
結論として,保険セクターとしての予防的アプローチの概念の再定義に社会的意義ならびに効果が確認できること,および,本論文が議論の発端となり,次なるパンデミックXの感染拡大予防に資するさらなる研究発展の期待が持てることを述べ,取りまとめとした。
本論文の第一の研究の目的は,次なるパンデミックXにおいて持続可能社会形成と地域社会レジリエンス力向上に資する,社会的存在たる保険セクターに蓄積されている知見および強みの深化を行うことである。第二の研究の目的は,その合理的な活用による予防可能な分野について探索することである。本論文では,COVID-19事例分析を通じて,高齢者に対するワクチン接種加速の分野に探索の焦点を当て考証する。第三の研究の目的は,次なるパンデミックXに備えるための具体的提言への糸口とすることである。
結論として,保険セクターとしての予防的アプローチの概念の再定義に社会的意義ならびに効果が確認できること,および,本論文が議論の発端となり,次なるパンデミックXの感染拡大予防に資するさらなる研究発展の期待が持てることを述べ,取りまとめとした。
■キーワード
パンデミックX,保険セクター,無償の予防的アプローチ
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 1 − 27
保険会社が取り組むべきパンデミックリスクファイナンスに関する一考察
—パンデミックボンドと相互支援プログラムを事例として—
伊藤 晴祥
■アブストラクト
本研究ではパンデミックリスクファイナンスは社会厚生を高めるか,保険会社の企業価値を高めるか検証を行う。パンデミックボンドを発行した場合,保険会社が150%と高い付加保険料率(θ)を設定しても,個人のリスク回避係数(λj)が0.4の場合には,個人の効用を高める。しかし,パンデミックボンドの投資家が富裕層のみの場合,平均的には富が貧困層から富裕層へ移る。パンデミックボンドのファンドを組成する等,貧困層もパンデミックボンドへの投資が可能となるような工夫が必要である。保険会社の企業価値は,パンデミックの発生確率が5%,パンデミックボンドの利回りが8%,かつ,保険会社のリスク回避係数が0.24を超えれば,高まる。相互支援プログラムを利用した場合,θが23.49%,λjが0.4,罹患率が40%であれば,個人の効用は高まる。λjが0.24かつ罹患率が40%の場合は,θを相互宝並みの8.00%にする必要がある。さらに,保険会社がリスク回避的である限り,保険会社の企業価値は高まる。しかし,期待キャッシュフローは正でも,パンデミックが発生しない限り,キャッシュフローが得られないため,他の保険商品を販売する等,収益の平準化が必要である。
■キーワード
パンデミックリスクマネジメント,リスクファイナンス,相互支援プログラム,パンデミックボンド,企業価値,社会厚生
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 29 − 70
生命保険を巡る紛争解決のあり方に関する一考察
—ウィズコロナ・ポストコロナ時代への示唆—
泉 裕章
■アブストラクト
本稿は,コロナ禍を経た今,紛争解決の場面を含めて消費者・事業者間の「対話の重要性・価値」が認識されている中,生命保険を巡る両者間の紛争のために用意されている解決手段がウィズコロナ・ポストコロナ時代に適応したものとなっているか,という問題意識の下,保険契約者等との「対話」を意図して生命保険会社の側から民事調停を申し立てた事例を手掛かりに,生命保険を巡る紛争の解決のあり方について考察し,今後への示唆を得る。
手掛かりとして取り上げた複数の民事調停事例を考察した結果,「対話」の結果(調停成立か調停不成立か)には差異が見られたものの,一定の条件の下で,生命保険会社の側から進んで民事調停の場における「対話」を模索したことには一定の意義が認められた。こうした手法は,生命保険を巡る紛争の解決手段の大半を占めてきた訴訟や金融ADRたる裁定審査会が「対話」の場として機能しにくい現状との差別化という点で有意であり,生命保険を巡る紛争に係る「対話の重要性・価値」を実現する手段という意味において,1つの仮説に行き着く。そして,この仮説は,我が国の民事調停制度の歴史及び将来予測を踏まえた総論としても,さらに,我が国の生命保険契約に基づく保険給付が一般にall or nothingの考え方を採用していることを踏まえた各論としても,正当性を有すると考えられる。特に,保険給付を巡る(保険金受取人にとって不利な)決定に対し合理的な異論が差し挟まれる余地がある場合,「顧客本位の業務運営に関する原則」の「顧客の最善の利益の追求」という観点からも,生命保険会社の側から民事調停を申し立てるという形で積極的に「対話」を持ちかけることには,実際上の有用性が認められる。
手掛かりとして取り上げた複数の民事調停事例を考察した結果,「対話」の結果(調停成立か調停不成立か)には差異が見られたものの,一定の条件の下で,生命保険会社の側から進んで民事調停の場における「対話」を模索したことには一定の意義が認められた。こうした手法は,生命保険を巡る紛争の解決手段の大半を占めてきた訴訟や金融ADRたる裁定審査会が「対話」の場として機能しにくい現状との差別化という点で有意であり,生命保険を巡る紛争に係る「対話の重要性・価値」を実現する手段という意味において,1つの仮説に行き着く。そして,この仮説は,我が国の民事調停制度の歴史及び将来予測を踏まえた総論としても,さらに,我が国の生命保険契約に基づく保険給付が一般にall or nothingの考え方を採用していることを踏まえた各論としても,正当性を有すると考えられる。特に,保険給付を巡る(保険金受取人にとって不利な)決定に対し合理的な異論が差し挟まれる余地がある場合,「顧客本位の業務運営に関する原則」の「顧客の最善の利益の追求」という観点からも,生命保険会社の側から民事調停を申し立てるという形で積極的に「対話」を持ちかけることには,実際上の有用性が認められる。
■キーワード
対話,民事調停,顧客本位の業務運営
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 71 − 100
保健医療ニーズと民間医療保険
小坂 雅人
■アブストラクト
日本の民間医療保険に求められている「公的保険を補完」する役割について,疾病構造の変化と保健医療ニーズの構造に着目した分析・検討を行った。生活習慣病対策は保健医療分野における優先課題であるが,なかでも高血圧や糖尿病のような「リスク疾患」は外来診療が中心であり,「入院」を支払事由とする民間医療保険では十分な対応ができていなかった。また,病院機能別にみた入院医療費の差異拡大や,感染症法等の定めによる患者負担の減免等の事例に鑑みると,患者の医療費負担とは関連しない「定額」給付のあり方について検討の余地があるように思われた。民間保険による保険給付を,社会的に望ましいと考えられるものの過少利用となっている保健医療サービス領域に重点化して必要な受診を促進することで,稀少な保健医療資源の有効活用にも寄与することができるのではないだろうか。
■キーワード
保健医療ニーズ,民間医療保険,公的保険を補完
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 101 − 122
総合商社のリスクマネージャーが期待する損害保険業の機能と役割
—保険機能の追及と社会インフラとしての役割—
飯島 慶紀
■アブストラクト
損害保険業のバリューチェーンをリスク分析・評価,保険引受・条件設定,販売・証券発行等のオペレーション,保険事故査定・保険金支払の4つに区分し,フェーズ毎における損害保険業として不変的な機能と,今後の重要となる機能を示す。その後,保険契約者の観点から企業が損害保険を購入する動機と損害保険に求める本質的価値を考察し,企業は資本効率の高い保険商品を求めることを説明する。保険提供者・保険契約者のいずれの観点も踏まえた上で,積極的な情報発信を含むリスク分析・評価機能の強化,及び社会インフラとしての保険業の役割再定義や社員の意識変革が,損害保険業において更に重要な機能と役割になると考える。
筆者は損害保険会社にて国内外の勤務を経て,現在,住友商事株式会社の保険リスクマネージャーとして勤務している。保険の理論と実務,保険会社の経営とオペレーション,売り手(保険会社側)と買い手(事業会社側),各観点における立場やスタンスの違い等,損害保険市場の現場を通じ,経験・体感した事実と学問としての保険学を昇華させ,損害保険業の機能と今後の目指すべき方向を示したい。
筆者は損害保険会社にて国内外の勤務を経て,現在,住友商事株式会社の保険リスクマネージャーとして勤務している。保険の理論と実務,保険会社の経営とオペレーション,売り手(保険会社側)と買い手(事業会社側),各観点における立場やスタンスの違い等,損害保険市場の現場を通じ,経験・体感した事実と学問としての保険学を昇華させ,損害保険業の機能と今後の目指すべき方向を示したい。
■キーワード
損害保険機能のバリューチェーン,資本効率,社会インフラとしての保険業
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 123 − 149
米国最新判例にみるCOVID-19と事業中断保険
森 明
■アブストラクト
2019年暮れに中国湖北省の省都である武漢で突如発現した新型コロナウイルス感染症(COVID-19:新型冠状病毒感染症)は年明けの2020年初から世界中に蔓延して感染爆発(Pandemic)を引き起こした。そして今も猶,政治,経済,文化等の社会生活に多大な影響を及ぼしている。
本稿ではこの大難に関連する米国での事業中断保険訴訟(Business Interruption Insurance Litigation)について解説する。
保険大国の米国では,損失がCOVID-19の「直接且つ物理的結果か否か」という争点のみで,延々と各州又は各連邦巡回区単位で二千数百件の裁判が行われている。そして極めて少数の例外を除き上訴審判決は全て保険者有利のものである。更に驚くべきは,同種・同類の事案が本稿執筆中の2022年9月に於いても提訴され続けているということである。
米国は司法制度が英国とは異なり,亦,最高裁判例で保険法は州法に任せることとされているので,本件の一般原則に関する最終結論はいつどのような形で出されるのか予断を許さない。
今後COVID-19のような新奇の危険が発生した場合,米国でこれを保険(共同保険と再保険を含む)という制度で対応するとすれば,英国のように,金融行為規制機構の設立と全米を対象とする保険法を制定するしかないと思われる。
本稿ではこの大難に関連する米国での事業中断保険訴訟(Business Interruption Insurance Litigation)について解説する。
保険大国の米国では,損失がCOVID-19の「直接且つ物理的結果か否か」という争点のみで,延々と各州又は各連邦巡回区単位で二千数百件の裁判が行われている。そして極めて少数の例外を除き上訴審判決は全て保険者有利のものである。更に驚くべきは,同種・同類の事案が本稿執筆中の2022年9月に於いても提訴され続けているということである。
米国は司法制度が英国とは異なり,亦,最高裁判例で保険法は州法に任せることとされているので,本件の一般原則に関する最終結論はいつどのような形で出されるのか予断を許さない。
今後COVID-19のような新奇の危険が発生した場合,米国でこれを保険(共同保険と再保険を含む)という制度で対応するとすれば,英国のように,金融行為規制機構の設立と全米を対象とする保険法を制定するしかないと思われる。
■キーワード
事業中断保険(Business Interruption Insurance),必需型業務(Essential Business)と社会機能維持者(Essential Workers),州法推知(Erie guesses)適用の可否
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 151 − 176
コロナ禍の非対面手続き推進の課題と展望
—損保の代理店チャネルから見た考察—
竹井 直樹
■アブストラクト
新型コロナウイルスの感染拡大による行動自粛制限が保険会社の非対面手続きを加速させた。当初は損保会社も生保会社も手探りの対応だったが,その後はデジタル技術も活用した新たなビジネスモデルが次々に誕生した。損保の代理店チャネルではこれまでも契約更新を中心に非対面手続きが行われてきたが,新規契約でも非対面手続きが可能になり,非対面を求める顧客ニーズや顧客利便に対応した。しかし,こうした非対面の対応はコロナ収束後も見据えたビジネスモデルの変革でなければならない。この点では非対面手続きが各社各様のバラバラ,スマートフォン利用の使い勝手,デジタル技術の利用状況など,課題も散見される。また,そもそも保険ビジネス自体もデジタル化の加速によって大きく変わりつつあり,そうした流れも踏まえながら課題解決に向き合っていく必要がある。
競争環境が変容し技術競争が激化するなかで,保険会社は顧客本位の,CX向上が構造化されたマーケットを創造することによって持続的な発展が可能となる。そのためには業務プロセスなどのビジネスモデルの基本的な考え方やコンセプトを業界全体で共有することが重要で,そうすることによって質の高い,未来を切り開く競争が促進される。
競争環境が変容し技術競争が激化するなかで,保険会社は顧客本位の,CX向上が構造化されたマーケットを創造することによって持続的な発展が可能となる。そのためには業務プロセスなどのビジネスモデルの基本的な考え方やコンセプトを業界全体で共有することが重要で,そうすることによって質の高い,未来を切り開く競争が促進される。
■キーワード
コロナ,非対面・非接触,ビジネスモデル
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 177 − 206
健康増進型医療保険が保険会社の財務状況に及ぼす影響
—健康保険組合データからの分析—
諏澤 吉彦・田中 貴・永井 克彦
■アブストラクト
本研究の目的は,健康増進型医療保険契約の引き受けが,保険会社の財務状況に及ぼす影響を,健康保険組合データを用いたシミュレーション分析に基づいて明らかにすることである。分析は,生活習慣病に関わる健康診断計測項目としてBMI,血圧,HbA1cおよびALTに注目し,被保険者がこれらの値を改善させた場合に,保険終期までの最良予測に基づく期待保険金削減額を原資とした保険料割引を適用する医療保険契約を引き受けるわが国の平均的な架空の生命保険会社を想定して行った。保険会社の財務状況の分析には,2025年にわが国でも導入が予定されている国際保険資本基準における貸借対照表および経済価値ベースのソルベンシー比率を用いた。その結果,健康診断計測値の改善は,期待保険金の低下分に相当する保険料割引を対象者に適用してもなお,保険会社の財務状況を改善することがわかった。
■キーワード
健康増進型医療保険,経済価値ベースのソルベンシー比率,シミュレーション分析
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 207 − 239
企業リスクマネジメントの変遷
—戦後から現在までの日米保険とリスクマネジメントの関係—
前田 祐治
■アブストラクト
本稿では,1960年代から2020年まで,10年刻みで日米の企業リスクマネジメントの変遷を概観することで,保険とリスクマネジメントの関係を明確にする。制度化された企業のリスクマネジメントの始まりは,1960年代の米国における賠償責任保険の保険料高騰の時代である。保険料高騰に苦しんだ米国企業は,保険プログラムに高額な免責を設定することで保険料の軽減を試み,免責部分の損害を自家保険で制度化するために,キャプティブ保険会社を設立した。90年代は金融工学の進展により,保険リスクの証券化,デリバティブ取引を利用したリスクヘッジ手法などが開発され,リスク移転策が保険以外に多様化した。近年では,エンタープライズリスクマネジメント(ERM)が保険会社だけでなく非保険会社にも導入され始めた。ERMのアプローチでは,保険は一リスク移転手法であり,保険マネジメントはリスクマネジメントの中に包含される。
■キーワード
企業リスクマネジメント,ERM,高額免責
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 241 − 259
韓国における新時代の巨大災害とリスク・ファイナンシング
—巨大災害と保険制度を中心に—
李 洪茂
■アブストラクト
韓国における巨大災害に対するリスク・ファイナンシング(Risk Financing)としての保険制度の活用は,次のように要約できる。
第一に,自然災害とそれ以外の災害を『災難および安全管理基本法』の中で「自然災難」と「社会災難」に分類し,その対応を統合的に一元化している。
第二に,自然災害に対する政策保険では公私の危険分担が行われている。政府は,保険会社の安定的な事業の運営のために,政策保険の再保険を引き受けている。この政府による再保険の引受は,損害率200%を超える損害に対して行われるものであり,それ以下の損害率の損害は,民間保険会社の責任による再保険会社などへの再保険によって危険分散が行われる。
第三に,自然災害に対する政策保険は,原則的に任意加入として政府と地方自治体が保険料を支援している。一方,「社会災難」に対しては,民営の火災保険と賠償責任などへの加入が強制されている。
第一に,自然災害とそれ以外の災害を『災難および安全管理基本法』の中で「自然災難」と「社会災難」に分類し,その対応を統合的に一元化している。
第二に,自然災害に対する政策保険では公私の危険分担が行われている。政府は,保険会社の安定的な事業の運営のために,政策保険の再保険を引き受けている。この政府による再保険の引受は,損害率200%を超える損害に対して行われるものであり,それ以下の損害率の損害は,民間保険会社の責任による再保険会社などへの再保険によって危険分散が行われる。
第三に,自然災害に対する政策保険は,原則的に任意加入として政府と地方自治体が保険料を支援している。一方,「社会災難」に対しては,民営の火災保険と賠償責任などへの加入が強制されている。
■キーワード
リスク・ファイナンシング(Risk Financing),自然災害,強制保険
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 261 − 283
先進医療特約と重大事由解除
宮根 宏一
■アブストラクト
先進医療特約への重複加入の問題は,従来型のモラルリスク事案とは性質を異にする面もあるが,広義の利得禁止原則等との関係からも,先進医療特約が著しい不労利得を得るために利用されることを防止するために重大事由解除が用いられことは,肯定されるべきである。
また,当該の問題については,理論上は,先進医療特約の法的性質を損害保険契約と理解することによっても対応が可能であり,さらに,より簡便で現実的な対応としては,給付の内容ないし範囲についての約款規定の改定も考えられるものである。
また,当該の問題については,理論上は,先進医療特約の法的性質を損害保険契約と理解することによっても対応が可能であり,さらに,より簡便で現実的な対応としては,給付の内容ないし範囲についての約款規定の改定も考えられるものである。
■キーワード
先進医療特約,重大事由解除,広義の利得禁止原則
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 285 − 303
D&O保険における免責条項の再検討
牧 真理子
■アブストラクト
令和元年会社法改正により,D&O保険に関する規定が新設された。当該改正はD&O保険による填補の内容に関わる免責条項については触れていないため,従前どおり,D&O保険約款により規定されることになっている。そこで,D&O保険約款の免責条項の解釈について,改めて検討する必要もあると考える。本稿は,一般にD&O保険約款の免責事由として規定されている「法令に違反することを被保険者が認識しながら行った行為」について,日本と同時期にD&O保険を受容したドイツを比較対象として,ドイツにおけるD&O保険約款の免責条項に関する議論状況を検討するものである。
ドイツでは,取締役の経営判断の誤りが責任追及され,注意義務違反があると考えられる場合に,D&O保険約款の免責条項に該当するか,学説上さまざまな説明が加えられてきた。しかし,明確な判断基準は確立しておらず,実務上は,法令や一般的な義務に反して行動していないか,取締役の本質的な義務をもとに解釈している。もっとも,免責条項は,取締役の行動を規律するために機能しているといえる。
ドイツでは,取締役の経営判断の誤りが責任追及され,注意義務違反があると考えられる場合に,D&O保険約款の免責条項に該当するか,学説上さまざまな説明が加えられてきた。しかし,明確な判断基準は確立しておらず,実務上は,法令や一般的な義務に反して行動していないか,取締役の本質的な義務をもとに解釈している。もっとも,免責条項は,取締役の行動を規律するために機能しているといえる。
■キーワード
D&O保険,免責条項
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 305 − 326
「リスク選好に関する一考察」
—純粋,投機的,射幸的の3種のリスクにおけるリスク・プレミアムの水準—
星野 明雄
■アブストラクト
保険加入等のリスク回避的選好は,効用関数が凹関数であることを示唆する。一方,宝くじや馬券の購入等のリスク愛好的な行動は,効用関数が凸関数であることを示唆する。両者が同時にみられることは,一様に凹または一様に凸である関数による効用の理解を困難にしている。
この困難を解決するため,リスクを純粋リスク,投機的リスク,射幸的(宝くじ等)リスクに3区分し,それぞれの区分に異なるリスク選好が働くと仮定する枠組みが考えられる。
この3区分の有効性を確認する目的で,小規模の予備的調査を行い,各選好を表すリスク・プレミアム(当該リスクを回避または追求(獲得)するために人が支払ってよいと考える費用)を測定した。その結果,純粋リスクを回避するためのリスク・プレミアムは大きく,投機的リスクでは相対的には小さいこと,また射幸的リスクでは,逆にリスクを追求(獲得)するためのリスク・プレミアムが大きいことが示唆された。
小規模かつ統制の不十分な調査ではあるが,この結果は,上記3区分が有効である可能性を示唆し,さらに,本格的な検討の基礎となりうるものではないかと期待する。
この困難を解決するため,リスクを純粋リスク,投機的リスク,射幸的(宝くじ等)リスクに3区分し,それぞれの区分に異なるリスク選好が働くと仮定する枠組みが考えられる。
この3区分の有効性を確認する目的で,小規模の予備的調査を行い,各選好を表すリスク・プレミアム(当該リスクを回避または追求(獲得)するために人が支払ってよいと考える費用)を測定した。その結果,純粋リスクを回避するためのリスク・プレミアムは大きく,投機的リスクでは相対的には小さいこと,また射幸的リスクでは,逆にリスクを追求(獲得)するためのリスク・プレミアムが大きいことが示唆された。
小規模かつ統制の不十分な調査ではあるが,この結果は,上記3区分が有効である可能性を示唆し,さらに,本格的な検討の基礎となりうるものではないかと期待する。
■キーワード
リスク回避,リスク愛好,リスク・プレミアム
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 327 − 355
地震インデックス保険(地震に備えるEQuick保険)の開発
落合 祐介
■アブストラクト
東京海上日動火災保険株式会社は,2021年3月に,自然災害等で観測された指標(インデックス)に基づき定額の保険金を支払うインデックス保険の一種である「地震に備えるEQuick保険」(正式名称:震度連動型地震諸費用保険)の販売を開始した。この地震インデックス保険は,被災直後の当座の生活資金の確保を目的とし,被災者の生活再建を目的とした地震保険の機能を補完する位置づけである。
被保険者が居住する地域で観測された地震の震度に応じて,予め定められた定額の保険金を支払うこの地震インデックス保険は,損害のみなし発生および損害額のみなし算定を行う定額給付型の損害保険商品であり,事故発生の通知や保険金請求権の行使に関する約款の規定に特徴がある。被災者のニーズに合致した商品であり,約款の規定は,契約者または被保険者の義務の軽減に繋がるとともに,需要・利便に資する。
被保険者が居住する地域で観測された地震の震度に応じて,予め定められた定額の保険金を支払うこの地震インデックス保険は,損害のみなし発生および損害額のみなし算定を行う定額給付型の損害保険商品であり,事故発生の通知や保険金請求権の行使に関する約款の規定に特徴がある。被災者のニーズに合致した商品であり,約款の規定は,契約者または被保険者の義務の軽減に繋がるとともに,需要・利便に資する。
■キーワード
インデックス保険,パラメトリック保険,損害のみなし発生および損害額のみなし算定
■本 文
『保険学雑誌』第659号 2022年(令和4年)12月, pp. 357 − 383